過ぎたるはオトナ及ばざる騒動の始まり
「よお、邪魔するぜ。」
「おー来たか遊人。」
その日十二支高校野球部監督、羊谷遊人は旧友である村中紀洋の自宅に来ていた。
教え子や我が子が第一回の県対抗総力戦を制した祝いで、
オヤジらしく飲み明かそうというのだ。
「いい酒は用意してんだろうな?」
勝手知ったる、という様子で玄関をくぐる親友に、村中は任せとけといった風に笑う。
「おう、今日は無礼講だ。
お前んとこの小僧に頼んでいい酒を配達してもらうからな。」
自分のところの、という所で羊谷は疑問を感じた。
「オレのところの?牛尾からか?」
最初に思い付いたしっかり者の大富豪の教え子の名を出すと、
今度は村中の方が不思議そうな顔をした。
「なんだ?遊人お前知らんのか?わしが呼んだのは…。」
「ちわ〜猿野酒店で〜す!」
突然裏口から聞こえて来た声が、羊谷の疑問にしっかり答えてくれた。
「猿野!?」
「なんだ遊人、お前ホントに知らんかったのか?教え子の自宅の商売。」
「…聞いてねえからな。ってか何でお前が知ってるんだ?」
「ワシは伜から聞いたんだがな。あ、言っとくが配達頼んだのは今日が初めてだぞ?」
羊谷は正直面食らっていた。
村中が知っていたという裏事情はともかく。
いつも好き勝手に騒いでいる教え子と、酒屋という客商売がどうしても繋がらなかったからだ。
が、そんな戸惑いをよそに。
「おー小僧、こっちまで持って来てくれんか。」
「はいはい、今行きますよ。」
天国自身が多量の酒を慣れた手つきでかかえて現れた。
「配達に来ました〜…って、ヒゲじゃねえか!
何だよおっさん、今日はオヤジ同士で飲み明かしっすか?」
「ああ、お前らの優勝祝いだからな。」
「オヤジばっかずるいよな〜今度はオレらにもおごれよ。
主役は可愛い生徒なんだからな?」
「お前なあ。」
自分を指導する監督と、他校の監督を相手に物怖じもしない(するとは思っていなかったが)
教え子に、羊谷は苦笑する。
苦笑しつつも、いつもどおりの笑顔の天国に少し安心しもした。
そんな羊谷の内心をよそに、天国は配達してきた酒瓶を出し。
用意してきた盆の上に手馴れた動作で乗せていった。
「さて、本日は猿野酒店特上の日本酒をお持ちしました。
あと注文のビールとウイスキーもすぐに運びますので少々お待ちを。」
「お、結構銘柄そろってるな。
北の錦…これ北海道のじゃねえか?」
天国の運んできた日本酒を見ると、街の酒屋にしてはなかなかの品揃えのようだ。
一度足を運んでみるか、と羊谷も考えた。
「ああ、それはこの間知り合った北海道選抜の奴のツテでさ。
今度からうちの店にも入れるようになったんだよ。
客に飲んでもらうのは初めてだから、味見頼むぜ?」
その言葉に、羊谷は驚きながらも。
全国でも天国らしく人の輪を広げてきたんだな、としみじみと思った。
そういえば帰ってきた頃には華武の奴らとも随分と打ち解けていた。
練習試合で初めて会ったときには想像もつかなかったものだが…。
「…実になる大会だったな。」
ぽん、と羊谷は息子の頭をなでるように天国の頭に触れた。
「……はい。」
天国も思うところがあったのか。
それに対して殊勝に答えていた。
それを見ていた村中も、どこかしみじみと父親の気分をおすそ分けしてもらっていた。
「よし、今日はお前も飲め猿野!」
「はあ?!おいこら村中のおっさん、アンタ教育者だろ?!」
「いや、今日は許す。お前も飲め猿野。」
「ヒゲー?!」
そして仕事中(なはず)なのにオヤジ二人に囲まれ酒盛りに加えられる男子高校生が一人…。
※バレたら部活動謹慎モノ
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「お〜い、猿野〜?」
「ダメだな、こりゃ。完全に潰れちまってる。」
酒盛りが始まってから数時間。
ほとんどザルな大人二人にかなうはずもなく、天国は沈没した。
「しゃあねえなあ、今日は泊めていくか。
飲ませた責任だし。」
「当たり前だな。コイツの家にはオレから連絡入れとくわ。
配達中だったのに悪いことしちまったなあ。」
口ほどには反省していないが、とりあえず村中家に泊めることにした時。
玄関で音が聞こえた。
「ただいま。」
「ん?魁か?」
この家の長男、村中魁が帰宅したのだ。
「親父殿、客人がおられるのですか?」
「ああ、丁度良かった。
魁、お前猿野を部屋に…。」
力自慢で、天国とも仲のよい魁に天国の運搬(笑)を頼むことにした。
が、これがいけなかった。
「何ですって?!猿野くん?!」
「げ?!牛尾!蛇神まで?!」
「監督…!」
なんと魁とともに来たのは十二支高校の牛尾と蛇神。
ついでに(おい)黒撰高校の小饂飩もいた。
どうやら街中で会ったらしい。
「猿野」の言葉にかけつけた4人が見たものは。
転がった多量の酒瓶とオヤジ二人。そして頬を紅く染めて床に寝転ぶ猿野天国。
その様子を見て超が付くほど生真面目な十二支の重鎮が黙っているわけはなかった。
「羊谷監督…。」
「いったいどーいうおつもりですか?!
生徒に酒を飲ますなんて!!」
「い、いやこれは村中の奴が…。」
「おい、遊人!」
「オヤジ殿ですか…。全く。」
「監督ってばだいた〜んv流石ピーな大人だけあるっすねえv」
「いや魁…小饂飩も、ちょっと待て…!!」
可愛い教え子と我が子にせまられたオヤジ二人は、さすがに分が悪くたじっている。
その修羅場をいちはやくくぐったのは、父の行動には慣れている魁だった。
寝入っている天国の身体を軽々と抱き上げると。
「とりあえず猿野は客間に連れて行きますよ。
飲ませた責任はこちらにあるようですからね。」
「あ、いや村中君!猿野くんは家の車で責任を持って自宅へ…。」
「カイちゃ〜ん、抜け駆けは現金だぜ?」
「村中殿、猿野は十二支の生徒ゆえそちらでご迷惑をおかけするわけにも…。」
天国をもって行かれまいと他の男子高校生たちは止めようとした。
だが、村中ははっきりといった。
「かまわない。猿野だからな。」
「「「!」」」
「「はあ??!!」」
きっぱりと言われた言葉には…多分、濃い意味が入っていたのだろう。
それはこの場にいた全員に伝わったようだ。
「…言うじゃないか村中くん…。」
「ムッツリのカイちゃんがねえ…負けてらんねえな。」
「……。」
結局村中を見送ってしまった3人は、悔しげにつぶやく。
そしてしばらくして牛尾は呆けているオヤジ二人に向き直り。
にっこりと笑って、言った。
「羊谷監督、村中監督。」
「は、はい?」
「ど、どーした…牛尾?
「僕たちも泊めてもらいますよ?
猿野くんの身を護るためにね?」
「「…いや、その…。」」
「いいですね?監督。」
「「…はい…。」」
さて、その日村中家の客間はというと。
穏やかに眠る天国の回りに冷ややかなにらみ合いが行われていた。
「なあ…村中…。」
「…なんだ遊人…。」
「人を惹きつけるのも…問題だな。」
「…だな。」
「…飲み直そうぜ。」
「おう…。」
そしてオヤジのため息が一晩中つきることはなかったようだ。
end
手毬唄さま、大変お待たせして本当に申し訳ありませんでした!
今回はオヤジ視点の猿総受け…なんですが、あまりそれっぽくなかったような…。
人員も設定上少なくてすみません。
でも私自身はかなり楽しんでかけましたv(おいこら)
手毬唄さま、素敵なリクエスト本当にありがとうございました!
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